魂の隠れた深み
霊界からワーグナーがニーチェのために試みたこと
たとえば、ニーチェを取り上げてみましょう。きょうは、この問題を示唆するにとどめて、明日、くわしく考察することにしましょう。
1841年から1879年まで、天界で霊たちの戦いがありました。1879年以降、落ちた霊たちは人間界にいます。将来、人間の人
生を考察するとき、このような事柄を考慮しなければならなくなるでしょう。
ニーチェは1844年に生まれました。地上に下るまえ3年間、彼の心魂は戦っている霊たちの領域にありました。彼が少年のこ
ろ、まだショーペンハウアーは生きていました。ショーペンハウハーは1860年に死んでいます。ショーペンハウアーの死後、ニー
チェはショーペンハウアーの著作を読みはじめます。そのとき、霊的な領域にショーペンハウアー心魂がいっしょに活動しまし
た。これは現実的な関係です。ニーチェはショーペンハウアーの本を読みます。ショーペンハウアーがニーチェの思考のなかに働
きかけます。そうして、ニーチェはさらにショーペンハウアーの本を読み進めます。
どのような状態でショーペンハウアーは高みにいたのでしょうか。ショーペンハウアーは1860年から、ニーチェがショーペンハウ
アーの著作を読んでいる間中、まだ継続中の霊たちの戦いのなかにいたのです。ショーペンハウアーはニーチェに与えた霊感
を、霊たちの戦いとの関連において受け取ったのでした。1879年に、その霊たちは天から地に落ちました。1879年まで、ニーチ
ェの精神の軌跡は注目すべきものです。その軌跡は、ショーペンハウアーとワーグナーの影響から説明されることになるでしょ
う。
拙著『ニーチェ−反時代的闘士』に、その手がかりとなる事柄が述べられています。ワーグナーは1813年に生まれました。1841
年には霊たちの戦いが始まっています。ワーグナーは1883年に死んでいます。
ワーグナーからの影響が作用しはじめると、ニーチェの精神の歩みは注目すべき方向を取りはじめます。ワーグナーが死んだの
は1883年です。すでに、精神世界では霊たちの戦いは終わっています。霊たちはすでに天界から地上に落ちています。霊たち
が徘徊している地上に、ニーチェはいます。ワーグナーは上方におり、霊たちは地上に落ちています。
死後のワーグナーからニーチェへの影響は、ショーペンハウアーからニーチェへの影響とはまったく異なった課題を持っていまし
た。超個人的な具体的影響がはじまります。精神分析家がいうような抽象的なデーモン的影響ではありません。事実をほんとう
に理解するためには、具体的な霊的世界に歩み入る決意をしなくてはなりません。
1813年に生まれたリヒャルト・ワーグナーから、ニーチェは刺激を受けました。彼らがともにおこなったことは、1879年まで輝かし
いものでした。ニーチェは16歳のときから、ショーペンハウアーの影響を受けます。しかし、シーペンハウアーは1879年以前に、
精神世界で霊たちの戦いに参加していました。死んで精神世界に行ったワーグナーから地上のニーチェが影響を受けたとき、地
上には天界から落ちた闇の霊たちが徘徊していました。
「ニーチェは悪魔を見いだし、それをワーグナーに投影した」という事実を、ユングは発見しています。投影、傾斜、内向型、外向
型などの言葉は抽象的で、現実的なものではありません。真相はもっと意味深いものなのです。自分の心をとらえている世界観
を広めようと扇動すべきではありません。事実そのものが、このような世界観がいかに現代人に必要かを示すのです。(P58-
P61)
ある種のものごとは、現代の唯物論的観点とはまったく別の視点から考察されねばならない、と昨日お話ししました。そして、ニ
ーチェを例として取り上げました。ニーチェは1844年に生まれました。1841年に、精神世界で戦いがはじまりました。3年間、ニ
ーチェはその戦いのさなかにありました。
リヒャルト・ワーグナーは1813年に生まれていますから、その戦いに参加しませんでした。1841年に精神世界における戦いがは
じまってから3年間、ニーチェはそのなかに生きました。そして、この戦いの影響下に精神世界で受け取れる衝動すべてを、彼は
受け取りました。ニーチェの初期作品を読んでみると、そこには戦いの気分が混ざり込んでいます。一文一文に、彼が1841年か
ら1844年までの3年間に精神世界で体験したものの影響が見られます。そのために、ニーチェの初期作品は特別のニュアンス
を帯びています。
ショーペンハウアーが死んだとき、ニーチェは16歳でした。彼はショーペンハウアーの著作を読みます。精神世界に行ったショー
ペンハウアーの心魂とニーチェの心魂とのあいだに、現実的な関係が結ばれます。ショーペンハウアーの本を読むとき、一文ご
とに精神世界からショーペンハウアーの衝動がニーチェのなかに入ってくるのでした。ショーペンハウアーは1860年に、地上から
精神世界に移りました。そのころ、精神世界ではまだ戦いがおこなわれていました。
ショーペンハウアーは何をしようとしたのでしょうか。ショーペンハウアーはその戦いの影響を受け、自分の著作に記した思想を
自分の考えとして作用させつづけようとはしませんでした。ニーチェはショーペンハウアーの思想を継承しようとしました。しかし
ニーチェは、ショーペンハウアーの思想を独特の方法で継承したのです。
ショーペンハウアーは死の扉を通過したとき、自分が著述したのは闇の霊が近づいてくる時期であったことを知ります。闇の霊
たちは、まだやってきてはいませんでした。自分の思想を発展させたいという衝動が生じます。精神世界で、光の霊たちに対す
る闇の霊たちの戦いを体験して、ショーペンハウアーは自分の著述をつづけたいと思ったのです。彼の思想を継承しようとする衝
動を、ショーペンハウアーはニーチェの心魂のなかに注ぎ込んだのです。精神世界からニーチェの心魂のなかに入っていくもの
は、物質界でワーグナーとの交遊のなかで生じることと対照をなしています。そのように、ニーチェの心魂のいとなみ、ニーチェの
著述活動は組み立てられています。
1879年が近づいてきます。闇の霊たちが精神世界から地上に落とされたのち、精神世界でおこなわれた戦いは地上でおこなわ
れるようになります。1883年に、ワーグナーは精神世界におもむきました。ニーチェは、いまお話ししたような精神世界との関係
を持つというカルマ(業)をとおして、危険にさらされました。闇の霊たちによって邪悪な道に引きずり込まれる危険に、ニーチェは
さらされたのです。
ショーペンハウアーには、超越的−利己主義的な動機がありました。ショーペンハウアーは心魂として精神世界のなかにあり、
自分の思想を継承させようとして、ニーチェにインスピレーションを与えました。これは、死後にまでつづく超越的利己主義です。
利己主義的なものが、かならずしも悪いものであるとはかぎりませんが、ワーグナーが精神世界にいたったとき、闇の霊たちは
すでに地上に移っていました。ワーグナーは、ショーペンハウアーの場合とはまったく異なった雰囲気のなかに上昇してきたの
です。逆説的ないいかたになりますが、彼は非利己主義的な方法で、精神世界からニーチェを導くようになるのです。
ワーグナーはニーチェに自分の思想を継承させようとはせず、ニーチェ自身に適した分野で活躍させるようにしました。そして、適
切な時期にニーチェを精神錯乱に陥らせるという慈善をほどこしました。このようにしてワーグナーは、ニーチェの意識が危険に
満ちた領域に入っていくことを防いだのです。精神世界における闇の霊たちと光の神々との戦いのさなかにいたショーペンハウ
アーの心魂がニーチェに働きかけたあと、リヒャルト・ワーグナーの心魂が非利己主義的に純粋領域からニーチェに働きかけた
のです。ワーグナーがニーチェのために試みたのは、ニーチェのカルマをすでに地上に落ちている闇の霊から守ることでした。
こうして、ニーチェは闇の霊たちから守られました。晩年のニーチェの著作を、強力な妨害に由来するものを除去して正しく読む
と、そこに偉大な思想を見いだすことができます。(P79-P81)
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