イエスからキリストへ




不可視の力体ファントム

現代に、人間が明視力を発展させればさせるほど、「物質的身体とともに捨てられる物質的な素材と力が、物質的身体全体で
はない。物質的な素材と力が、物質的身体の全体的な形態を与えたことは一度もない。人間の〈ファントム〉と名付けねばならな
いものが、物質的な素材と力に属している」ということが明らかになっていきます。

ファントムとは、人間の形態です。ファントムが霊的組織として、物質的な素材と力に働きかけます。そうして、物質的な素材と力
は、物質界の人間の形態のなかに入っていきます。彫刻家は、大理石などの素材を削り取ることができないと、彫像を掘り出す
ことができません。彫刻家は考えを、素材に刻印しなければなりません。人体の素材は大理石でも石膏でもないので、芸術家
のような具合にはいきません。人間は現実的な思考内容として、外界に〈ファントム〉を有しています。彫刻がが素材に刻印した
ものは、地球の素材になり、その素材は死後、墓もしくは火に引き渡されます。ファントムは物質的身体に刻印されています。フ
ァントムは物質的身体に属します。ファントムは物質的身体から残る部分であり、外的な素材よりも重要なものです。外的な素
材は根本的に、人間形態の網のなかに詰め込まれたものにほかなりません。リンゴを車に積むようなものです。ファントムが重
要なものです。死後に崩壊する素材は、外の自然のなかにも存在するもの、人間形態に受け入れられたものにすぎません。

深く考えるなら、「土星期・太陽期・月期にわたる神霊存在の働きは、死ねば地球の元素に引き渡されるものだけを作ることだっ
たのか」と、思われるでしょうか。土星期・太陽期・月期をとおして発展したものは、そんなものではありません。土星期・太陽
期・月期をとおして発展してきたのはファントム、物質的身体の形態なのです。

ですから、物質的身体を理解するのは容易ではない、ということを明らかにしなくてはなりません。物質的身体を、幻影の世界の
なかで理解しようとしてはなりません。ファントムの萌芽・基盤は、トローネによって土星期におかれました。それから、叡知の神
霊が太陽期に、動きの神霊が月期に、形態の神霊が地球期に働きかけました。こうして、物質的身体がファントムになりまし
た。形態の神霊は、物質的身体のファントムのなかに生きているので、「形態の神霊」と呼ばれるのです。物質的身体を理解す
るために、私たちは、そのファントムに遡らねばなりません。

私たちの地球存在の発端にたつと、「高次の位階の存在たちの群れが、土星期・太陽期・月期から地球期へと、人間の物質的
身体の形態を準備してきた。それらの存在は、地球進化のなかに、このファントムを入れた」と、言うことができるでしょう。実際、
人間の物質的身体の最初のものとして、肉眼には見えないファントムがあったのです。それはまったく透明な力体です。肉眼が
見るものは、人間が受け入れた物質素材です。その物質素材が不可視の力体を満たすのです。肉眼が見ているのは、物質的
身体を満たしている鉱物であって、物質的身体ではありません。しかし、どのようにして、鉱物は人間の物質的身体のファントム
のなかに入ってきたのでしょう。

この問いに答えるために、地上における人間の発生を、もう一度思い浮かべましょう。

〈土星〉〈太陽〉〈月〉からやってきた力が、物質的身体の不可視のファントムのなかで、本当の姿で私たちに現れてきます。ファ
ントムを満たしている外的な素材すべてを度外視すると、それは高次の明視にファントムとして現れます。このファントムが、出発
点に立っているものです。ですから、人間の物質的身体は、地球生成の出発点において、目に見えないものでした。

この物質的身体のファントムに、エーテル体が付け加わったとしましょう。そうすると、物質的身体はファントムとして、目に見える
ようになるでしょうか。そうはなりません。エーテル体は、通常の観照には不可視のものだからです。〈物質体+エーテル体〉
は、外的・物質的な意味で、まだ見えません。アストラル体も、目に見えません。ファントムとしての物質的身体とエーテル体と
アストラル体が一緒になっても、まだ目に見えません。個我は内的には知覚されますが、外的には不可視です。土星期・太陽
期・月期からやってきた人間は、不可視のものにとどまり、明視者にのみ見えます。どのようにして、人間は目に見えるようにな
ったのでしょう。

聖書が象徴的に描いており、神秘学が実情を叙述している「ルシファーの影響」がなかったら、人間は目に見えるようになってい
なかったでしょう。何が起こったのでしょう。

『神秘学概論』を読んでみてください。不可視の物質的身体・エーテル体・アストラル体が形成された進化の歩みから、人間は
濃密な物質なかに投げ落とされました。そして、濃密な物質を、ルシファーの影響を受けたかたちで受け取りました。私たちのア
ストラル体と個我のなかに、ルシファー的な力がなかったら、濃密な物質は目に見えるようにならなかったでしょう。

ですから、私たちは人間を、目に見えないものと言わねばなりません。ルシファーの影響によって、物質を目に見えるものにする
力が、初めて入ってきました。ルシファーの影響を通して、外的な素材と力がファントムの領域に入り込み、ファントムに浸透しま
した。透明なコップに色のついた液体を注ぎ込むように、本来なら不可視のものが、色のあるもののように見えます。人間のファ
ントムのなかに、ルシファーの影響によって注ぎ込まれた力によって、人間は、不可視の形態を目に見えるものにする素材と力
を、地上で受け入れるのに適した存在になりました。

何によって、人間は目に見えるようになっているのでしょう。人間内のルシファーの力が、人間を物質界で目に見えるものにして
いるのです。ルシファーの力がなかったら、人間の物質的身体は、いつまでも目に見えなかったでしょう。ですから、人体はまっ
たく透明な、水晶のように澄んだ実質からできている、と錬金術師は強調しました。物質的身体は、本当に透明なものからでき
ています。ルシファーの力が、物質的身体を不透明にしたのです。人間はルシファーに誘惑されて、ある力をアストラル体のなか
に流し込まれました。そのために、死とともに手放すことになる、地球の外的な素材と力を受け取る存在になりました。その結
果、何が起こったでしょうか。ルシファーの影響下に、個我が地上で物質的身体・エーテル体・アストラル体と関連しなくてはなら
ず、人間は地上的存在になりました。こうして、人間は初めて、地上的な形姿の担い手になりました。(P129-P132)