教育の基礎としての一般人間学




自然と人間

「もし人間が自然の中に存在していなかったとしたら、自然はどうなっていただろうか」

この問いに関して現代の自然科学と自然哲学とは、基本的に大きな混乱状態の中にあります。たとえば、皆さんが現代の自然
科学者に次のような問いを発するとします。

「人間がいなかったら、自然は一体どうなるのか」

----おそらく自然科学者はこの問いを聞いてびっくりすることでしょう。なぜならこの問いそのものが奇妙なものに思えるに違い
ないからです。けれども、どうしてもそれに答えなければならなかったとするなら、自然科学の本質を考えてみると、次のような答
えしか出てこないでしょう。

「その時には、地上には鉱物、植物、動物がいて、人間だけがいないに違いない。そして地球は、カント=ラプラス理論が説明し
ているような星雲状の発端から今まで経過してきたのと同じ仕方で、これからも経過していくであろう。ただ人間がこの全過程の
中に存在していないだけであろう」

----それ以外の答えは基本的にはどこからも出てこないと思います。おそらくその自然科学者はさらに付け加えて、「人間は農
耕生活を営むようになり、土地を開墾し、そのようにして地球の表面に変化を与えた」とか、「人間は技術を開発し、それによって
環境にさまざまの変化と破壊をもたらした」とか言うかもしれません。けれどもそのようなことは、大自然そのものの変化に較べ
れば、まだそれほど大きいとは言えません。ですから自然科学者はいつも次のように言うと思います。

「人間が加わることなしにも、鉱物、植物、動物は進化し続けるに違いない」

これは正しくないのです。人間が地上の進化の過程に参加していなかったとすれば、大部分の動物、特に高等動物は存在しな
いでしょう。それらの動物たちは、比喩的な言い方をしますと、人間が強引に進化を遂げてきたことの結果として、進化の過程で
生み出されたものだからです。人間は地上での進化の特定段階において、さらに進化を遂げ続けるために、今とはまったく別な
姿をしていた人間自身の中から、高等動物たちを振り落とさなければなりませんでした。

この振り落とすということを理解するために、私は次のような比較をしてみたいと思います。ある混合液を考えて下さい。溶けて
いた成分が分離して、下に沈殿したと考えるのです。人間は進化のさまざまの段階で、動物界と一つになっていましたが、その
動物界を沈殿物のように分離してきたのです。人間が今日のような存在にならなかったら、動物たちも今日のような動物にはな
らなかったでしょう。地上の進化に人間が関わっていなければ、動物の形態は今日とはまったく違った姿をとっていたに違いな
いのです。

さらに鉱物界、植物界に眼を向けてみましょう。下等動物だけでなく、植物、鉱物もまた、人間が地上に存在していなければ、と
っくの昔に、いわば凝り固まってしまい、生成の過程をたどることはできなかったのです。今日の一面的な自然観からすれば、こ
こでもまた次のように言わざるを得ないでしょう。

「人間は死に、その肉体は焼かれ、あるいは埋葬され、そして大地の成分に帰っていく。そのことは地球の進化にとって何の意
味も持っていない。なぜなら地球は人間の死体を自分の中に取りこんだまま、今と同じ進化をたどり続けるであろうから」

けれどもこのような言い方をする人は、次のことをまったく意識していないのです。人間の死体が地球に取りこまれ、地球の成分
の一部分になるということは、それが火葬によろうと土葬によろうと、現実の過程に作用をおよぼしている、ということをです。

農家の主婦は都会の主婦よりも、パンを焼く時に酵母が、たとえごく僅かな分量でも、大事な働きをしていることをよく知ってい
ます。農家の主婦は、練った小麦粉に酵母を加えなければ、パンが十分にふくらまないことを毎日経験しています。それと同じ
ように、地球の進化もまた、絶えずそこに死によって霊的・魂的な部分から切り離された人体の死の力が加えられなければ、と
っくに週末の状態にきていたことでしょう。

人間の死体から力を受け取って、地球は進化を続けるのです。そのことによって、鉱物は結晶化の力を受け取ります。この人体
の力がなければ、鉱物は結晶化の力をもうずっと前に失ってしまったはずです。鉱物はとうの昔にぼろぼろに崩れ、解体されて
しまったことでしょう。またその同じ力によって、そうでなければとうの昔にもはや成長しなくなってしまったはずなのに、植物は
更に成長するように促されているのです。下等動物についても同じことが言えます。人間は肉体を通して、地球の進化のための
いわば酵母を提供しているのです。

ですから、人間がこの地上に存在しているということは、地上の他の諸存在にとっても、決して無意味なことではないのです。鉱
物界、植物界、動物界が、人間の存在なしにも、さらに進化を遂げていくであろうというのは、決して真実ではありません。自然
の進化過程は統一的であり、互いに緊密に関連し合っています。そして人間もまた自然に属しているのです。人間が死後なお
宇宙進化の過程の中で働いている、と考える時にのみ、人間を正しくイメージできるのです。(P45-P47)